非常用発電機の負荷試験とは?目的・方法・点検内容【熊本消防設備点検】
目次
はじめに
災害時に照明・非常放送・スプリンクラーなど、建物の安全を守る設備へ電力を供給する「非常用発電機」。
普段ほとんど動かさないからこそ、確実に始動し、必要な電力を安定して供給できる状態かどうか を定期的に確認することが欠かせません。
その中でもとくに重要とされているのが 「負荷試験」 です。
本コラムでは、非常用発電機の点検制度の概要から、負荷試験の目的・方法・法改正内容まで、実務目線で分かりやすく解説します。
非常用発電機は法律で定期点検が義務化されている
非常用発電機は、以下の法律によって定期的な点検が義務付けられています。
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消防法
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電気事業法
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建築基準法
いずれも点検の目的や範囲が異なり、総合的に安全性を確保する仕組みになっています。
とくに本記事で取り上げる 負荷試験は「消防法」に基づく総合点検の一部 です。
● 点検を怠るリスク
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非常時に発電機が起動せず、消防設備が作動しない
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漏電や過熱などの二次災害の危険
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行政指導・是正勧告の対象になる場合も
建物の用途によっては人命に直結するため、確実な点検が求められます。
法律ごとの点検内容の違い
■【消防法】
延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物などを対象とし、発電機そのものの動作性能を確認します。
主な確認項目
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原動機・交流発電機の状態
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制御装置・始動装置の動作
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電圧・電流・周波数・回転数
※6ヶ月に1回の機器点検、1年に1回の総合点検が必要。
■【電気事業法】
出力10kW以上のディーゼル式、すべてのガスタービン式発電機が対象。
送電の安全性に重点を置いた点検です。
主な確認項目
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自動起動・停止の動作
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蓄電池の液漏れ
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空ぶかし運転によるエンジン状態
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絶縁抵抗・接地状態
■【建築基準法】
建築設備全体の適法性を確認する点検で、発電機も対象に含まれます。
主な確認項目
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建築物・設備の不適合の有無
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蓄電池の期限切れ・液漏れ
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非常用照明・排煙設備の動作
負荷試験とは?(消防法に基づく総合点検)
負荷試験は 「非常時の状態を再現して、本当に電気を供給できるか」 を確認する試験です。
単にエンジンが始動するかを確認するだけではなく、
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必要な電力が発電できるか
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負荷がかかった状態でも異常がないか
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排気管内に溜まった未燃焼物質を排出できているか
など、実際の災害を想定した重要な検査になります。
負荷試験の種類
●実負荷試験
実際に建物の設備を稼働させ、発電機から電力を供給しながら確認する試験。
メリット
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実際に使う設備まで含めてすべて確認できる
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建物全体の電源切替動作をチェックできる
デメリット
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試験中は施設の一部または全部で停電が必要
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医療施設・工場などでは実施が難しい場合も
●疑似負荷試験(模擬負荷試験)
発電機に専用の負荷装置を接続して試験する方法。
メリット
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停電せずに実施できる
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他の設備を止めないため安全
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騒音や影響が少ない
デメリット
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設備本体への給電状況までは確認できない
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設備側の点検は別途必要
負荷試験の代替「内部観察等」について(法改正)
平成30年の消防法改正により、負荷試験の代替として 「内部観察等」 が追加されました。
発電機内部の状態を詳細に確認し、負荷試験と同等以上の精度が確保できる場合に適用されます。
確認する項目例
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過給器・タービン翼の摩耗状況
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燃料噴射弁の動作
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シリンダ内壁の状態
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潤滑油・冷却水の成分分析
条件を満たせば負荷試験は「6年に1回」へ延長可能
通常、負荷試験は1年に1回ですが、
予防保全が確実に行われている場合は 6年に1回 に変更できます。
主な条件
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予熱栓・点火栓・冷却水ヒーターの定期動作確認
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潤滑油・冷却水・フィルター類の定期交換
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メーカー推奨周期での部品交換
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始動用蓄電池などの適切なメンテナンス
負荷試験が重要な理由
非常用発電機は「普段まったく使われない」ため、
外観だけでは劣化や性能低下が分かりません。
負荷試験を怠ると…
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非常時に起動しない
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電圧が安定せず設備が動作しない
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煙・焼損など二次災害に発展
まとめ
非常用発電機は、建物の安全性を左右する最重要設備の一つです。
なかでも負荷試験は、非常時に確実に電力を供給できるかを確認する必須の試験です。
消防法で義務化されているため、
設備を所有・管理する建物は必ず定期的な点検を実施しましょう。
熊城防災総研では、
消防設備点検・発電機点検・報告書作成など、建物の安全管理をトータルでサポートいたします。
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