【熊本消防設備点検】点検をしていない建物が? なぜ行政は立入検査をしないのか──そして広がる“オーナーの不公平感”
建物の消防設備点検は、利用者の安全を守るために欠かせない仕組みです。しかし現場では、点検を丁寧に実施している建物と、ほとんど点検が行われていない建物または報告時のみ点検を行う建物が混在しているという課題が生じています。
一見すると「なぜ行政がもっとしっかり取り締まらないのか?」と思われがちですが、実はこの問題は、行政の怠慢が原因ではなく、制度の仕組み・範囲・行政リソースの限界に起因する“構造的な課題” である場合がほとんどです。
消防署や自治体も限られた人員の中で優先順位を付けながら対応しており、すべての建物を網羅的に把握することは現実的には難しいのが現状です。
◆はじめに
「消防設備点検が未実施または点検回数が不足している」と言われる地域もあるなか、
真面目に点検し、毎年の費用を負担しているオーナーが抱えるのが “不公平感”。
・きちんと点検している側は費用を負担
・未点検でも行政がすぐには立入に来ない建物もある
・火災リスクは放置建物の方が高いのに、責任や罰則の実効性が弱い
「なんでウチだけコストを払っているの?」
そう感じるのは自然なことです。
本記事では、なぜ消防は未点検の建物を放置しているように見えるのか、
そして制度上の構造が生む不公平の正体を、専門的にわかりやすく解説します。
◆消防設備点検をしていない建物が多い理由
消防法では、建物のオーナー・管理者に点検義務が課せられていますが、
実際に点検をしていない建物は珍しくありません。理由は次の通りです。
目次
■建物側の問題
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費用負担を避けたい
点検に数万円〜数十万円かかるため、後回しにされるケースも多い。
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点検制度そのものを知らない
オーナーが高齢の場合、消防法の改正についていけていない。
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テナント任せ・管理会社任せ
「誰がやるの?」「うちは関係ない」と責任が宙に浮くことも。
■行政側の問題
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消防署の人員不足で全建物を網羅できない
熊本でも、対象物件は数千〜数万。現実的に全件チェックは不可能。
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立入検査には時間がかかる
現場確認・書類確認・報告書処理で1件につき長時間必要。
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過去の違反歴がある建物に優先的に行く
「違反歴がある=火災リスクが高い」と判断されやすい。
結果として、
“危ないはずの未点検物件”がノータッチのまま放置されてしまう現象が起きます。
◆適正に点検しているオーナーが不公平に感じる理由
■点検コストの不均衡
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点検している建物:
毎年点検費用+報告手数料+軽微改修などの実費あり
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点検していない建物:
点検費ゼロ、行政の立入が来るまで放置
同じ地域でも、支払うコストがまったく違います。
■リスクの偏り
火災を起こしやすいのは本来「未点検の建物」のはずですが、
行政がリスク評価のために巡回しているのは、過去に違反があった建物が多くなってしまう可能性がある。
結果 →
「優良オーナー → ほぼノータッチ」
「違反オーナー → 時々チェックされる」
という皮肉な構造になります。
■制度上、行政は全物件をチェックする義務がない
消防は「自主点検制度」を基本としています。
つまり、
・行政が見回るのが義務ではない
・点検するのはあくまで所有者の責任
これが“不公平が放置されやすい構造”をつくっています。
◆では、この不公平はどう解消されるのか?
完全に解消することは難しいですが、次のような動きが進んでいます。
■デジタル報告義務化(消防庁の全国方針)
点検報告を電子化し、未提出を自動的に把握できるようにする流れ。
→ 未点検建物への指導がしやすくなり、不公平感が減る方向へ。
■保険会社が点検実施を重視
火災保険の適用範囲や料率に、
「消防設備の維持管理」が重視される傾向。
→ 点検していない建物は実質的に不利になる。
■近隣テナント・オーナー間での情報共有
火災は隣の建物にも延焼リスクがあり、
地域全体の安全性を高めるためにも点検の“見える化”が求められつつある。
◆結論
「点検している側が損をする」という現状は、
誰かの怠慢ではなく 制度の構造そのものが生んだ課題 です。
だからこそオーナー自身が
- 点検を継続する
- 保険・補助制度を活用する
- 近隣との情報共有を行う
といった取り組みを進めることで、
長期的に 建物の安全性・資産価値・テナントからの信頼 を守ることにつながります。
また今後は、制度や行政の仕組みが次第に改善されていくことも期待されています。
例えば、
- 点検状況を行政に届け出やすくする仕組み
- 未実施建物が自然に把握されるような情報管理
- オーナー側が負担なく相談できる窓口強化
- 点検実施オーナーが適切に評価される制度づくり
などが整備されれば、安全性と公平性の両立がさらに進むと考えられます。
当社としても、建物オーナーの立場に寄り添いながら、
「安心して継続できる防火安全管理」 の実現に向けて、今後も引き続き支援してまいります。