火災通報装置とは?設置義務・仕組み・注意点までを解説【熊本消防設備点検】
◆はじめに
火災通報装置は、火災が発生した際に119番へ自動通報する消防設備であり、
2015年の法改正により設置義務の対象が大幅に拡大しました。
しかし、用途・面積・構造・条例によって義務の有無が変動するため、
専門家でなければ判断が難しいケースも存在します。
本記事では、火災通報装置の役割、仕組み、設置義務、免除条件、
自動火災報知設備(自火報)との連動の考え方まで、
現場目線で徹底的にわかりやすく解説します。
火災通報装置とは
火災通報装置とは、火災の発生を消防機関へ自動的(または手動)で通報する設備です。
消防設備の世界では「火通(かつう)」という略称で呼ばれることもあります。
目次
◆主な役割
-
火災発生時に119番へ自動通報
-
あらかじめ録音した住所・建物名を送信
-
消防機関からの「逆信(折り返し)」を受け、現場と直接通話可能
-
初期対応を迅速化し、人的被害の拡大を防ぐ
火通の特徴は、「消防機関からの折り返し(逆信)」が必ず返ってくる点です。
現場が混乱している場合でも、消防側が状況を確認しながら出動判断を行えます。
◆火災通報装置の構成機器
主に以下の3つで成り立っています。
-
火災通報装置本体
自火報(受信機)と119番をつなぐ心臓部。停電でも動くよう予備電源を内蔵。
-
火災通報装置用電話機(赤電話)
消防機関からの逆信を受け、現場と直接通話する電話。
-
連動停止スイッチ
点検時や訓練時に、自火報からの信号連動を一時的に止める装置。
これがないと点検だけで119へ通報が入ってしまうため必須。
◆録音内容(自動音声)
原則として
-
住所
-
建物名(施設名称)
を消防署と打ち合わせの上で録音します。
火災時はこの音声が自動で送られ、
その後、消防署から必ず折り返しの連絡があります。
◆利用できる回線
火災通報装置は 通常の固定電話回線のみ 使用できます。
-
IP電話
-
光電話
-
携帯電話回線
これらは逆信が取れないため不可。
消防機関への通報中は、建物内の他の電話は強制的に遮断されます。
■ IP回線利用時に必要な注意点
火災通報装置は、アナログ回線に加えてIP回線に対応した機種であれば利用可能です。
しかし、IP回線へ変更する際には、以下の点に注意が必要です。
◆ 消防署への事前相談・届出が必須
IP回線への変更時は 必ず消防署へ相談を行い、必要に応じて届出が必要です。
◆ IP対応機種の確認
-
平成28年4月の改正告示適合品以降の機種が推奨。
-
古い装置をそのままIP回線に接続すると不具合が出る可能性あり。
◆ 不具合のリスク
IP回線では、
-
消防機関からの折り返し通話(逆信)ができない
-
通信が途切れる
-
完全に通報不能
などの可能性があります。
◆ ONU・ルーターなどのバックアップ電源
IP回線は、
-
ONU(光回線終端装置)
-
VoIPアダプタ
-
ルーター
の電源が落ちると通報できなくなるため、UPS(無停電電源装置)が必要です。
◆ 電源コンセントの管理
-
抜け止め
-
「火災通報装置」などのラベル
を付け、誤って抜かれないように管理します。
◆ 050番号は使用不可
IP電話の050番号では消防通報はできません。
必ず従来の「0AB-J」番号(市外局番から始まる番号)を使用してください。
◆ 逆信機能の確認
消防署からの折り返し通話がIP契約で正常に行えるか確認が必要。
NTTのIP化により、古い装置では逆信できない事例が出ています。
火災通報装置の設置義務
火災通報装置は、主に下記の建物で設置義務があります。
◆無条件で設置が必要な施設(宿泊・入院系)
-
病院
-
診療所(入院設備あり)
-
高齢者福祉施設(入所・宿泊を伴うもの)など
これらは 延床面積に関係なく設置必須 です。
◆面積によって義務が発生する施設
-
延床500㎡超
劇場、集会場、遊技場、ホテル、旅館、カラオケ店、保育園など
ここで重要なのは、消防法(国基準)と市町村条例は別 という点です。
条例の方が厳しい地域も多く、
“法律上は不要なのに消防署から求められる” ケースも珍しくありません。
設置義務が免除されるケース
以下の条件を満たす場合、火災通報装置の設置が免除されることがあります。
-
消防署から著しく離れた場所(概ね10km以上)
-
消防署からの距離が500m以内
-
建物内に「常時通報可能な一般電話機」が設置されている
※ただし、宿泊施設・病院・高齢者施設は免除不可
注意点として、
IP電話・光電話は一般電話扱いにならないため免除にならない 場合があります。
自動火災報知設備(自火報)との連動
火災通報装置は、原則として自動火災報知設備と連動させて使用します。
◆連動するメリット
-
感知器が火災を検知した瞬間、119へ自動通報
-
初期消火・避難が遅れるリスクの低減
-
夜間・無人時間帯でも自動通報される
◆あえて連動させないケース
ホテル等の宿泊施設では、
湯気による誤作動(ユニットバスの煙感知器で多発) が問題になり、
あえて手動起動に設定することもあります。
ただし、この判断は消防署との協議が必須です。
設置場所
原則として、以下のような「常時人がいる場所」に設置します。
-
防災センター
-
管理室
-
守衛室
-
事務室
自火報の受信機の近くに設置するのが一般的で、
夜間は宿直室へ遠隔起動装置を追加するケースもあります。
まとめ
火災通報装置は
“設置すればいい” 設備ではなく、建物ごとのリスクに応じた最適な配置・連動設定が重要
という特徴があります。
また、2015年の法改正以降、
宿泊施設・医療施設・福祉施設では設置指導が非常に厳しくなっています。
知らずに未設置のまま運営し、
消防検査で指摘・改善命令が入るケースも少なくありません。