避難器具とは?8種類の特徴と設置基準をわかりやすく解説【熊本消防設備点検】

建物で火災が起きた際、エレベーターや階段といった普段の避難経路が使えなくなることがあります。

そのような「最後の命綱」として設置されているのが避難器具です。

消防法では8種類の避難器具が規定されていますが、

建物の用途(学校・マンション・工場など)、収容人数、階数によって設置基準が大きく変わるため、理解するのは簡単ではありません。

この記事では、消防設備点検の専門家として、

避難器具の種類・仕組み・設置基準・管理のポイントをわかりやすく整理して解説します。


■ 避難器具とは

避難器具とは、火災などにより通常の避難経路が使えない場合に、建物の上層階から安全に避難するための非常用設備です。

消防庁告示により性能基準が定められ、実際には次の8種類が該当します。


■ 避難器具の8種類と特徴

避難はしご

もっとも一般的な避難器具。

手すりの付いた固定式、バルコニー床下から引き出すハッチ格納式、吊り下げ式など多様なタイプがあります。

集合住宅では“バルコニーの床にある四角いフタ”の中に収納されているものが主流。

構造がシンプルで信頼性が高い一方、使用時には高さによる恐怖を感じる人もいます。


緩降機(かんこうき)

体に器具を装着してロープでゆっくり降下する装置。

重さに関係なく一定速度で降りられるよう「調速機」が内蔵されており、着地の衝撃も小さいのが特徴。

ビルや宿泊施設で多く採用されています。


救助袋

袋状の筒の中を滑るように降りる避難器具。

学校などで見かける斜めタイプ(斜降式)と、縦方向に螺旋状に滑る垂直式があります。

比較的安全に多人数を避難させたい建物でよく使われます。


滑り台

固定された滑走路を使ってすべり降りるタイプ。

公園にある滑り台のイメージに近く、短時間に多くの人が避難できるため、病院・学校・保育園などで採用されます。


避難用タラップ

手すりの付いた階段状のはしご。

安全性が高い反面、設置スペースの制限があるため近年は採用例が少なめ。


避難橋

隣接する建物に“横方向に”避難するための装置。

設置するには隣の建物の協力や高さ条件が必要で、導入例は多くありません。


避難ロープ

結び目付きロープで滑り降りる最もシンプルな避難具。

狭い場所にも保管できますが、使用には一定の体力が必要で、主に低層階向けです。


すべり棒

消防署で消防隊員が使う“ポール”と同じ仕組み。

縦方向に素早く降りられますが、安全性の面から一般の建物では設置例は少なく、限られた用途に使われます。


■ 避難器具の設置基準の考え方

避難器具の設置は以下の3要素で決まります。

  1. 建物の用途(病院、学校、ホテル、工場、共同住宅など)

  2. 収容人員(20人以上、30人以上、50人以上、100人以上…など)

  3. 階数(避難階/2階/3階/4階以上〜10階まで)

この組み合わせによって、「どの階に」「どの種類の避難器具を」設置するかが細かく規定されています。

特にポイントは以下の2つ。

◆ 11階以上は原則“避難器具の設置除外”

高層階はスプリンクラーや連動設備が義務化されており、避難器具による避難を想定していないためです。

◆ 下階の用途によって“必要基準が厳しくなる”

例:

マンションの下階に飲食店・カラオケ・劇場など“火災リスクが高い用途”があると、

収容人員10人以上として扱われ、より厳しい規制が適用されます。


■ 設置後に大切な「維持管理」

避難器具は“非常時に初めて使う”ものです。

そのため、次の管理が不可欠です。

  • 保管場所に物を置かない

  • 開閉部の動作不良がないか点検する

  • 使用方法を事前に確認しておく

  • 年2回の消防設備点検で状態を確認

  • 老朽化や錆、ロープの硬化があれば交換する

特に避難はしご・緩降機・救助袋は「使用方法を知らないと使えない」ため、

建物の管理者は平時から説明を受けておくことが重要です。


■ まとめ

避難器具は全部で8種類あり、それぞれに特徴や適した用途があります。

また、建物の用途・収容人数・階数の組み合わせで設置基準が大きく変わるため、

専門知識がないと判断が難しい設備です。

避難器具の設置・交換・点検については、消防設備点検のプロに相談することで、

法律や建築基準を踏まえた最適な提案を受けることができます。

避難器具はあなたの命を守る最後の砦。

日常から正しく管理し、いざという時に必ず使える状態を保ちましょう。

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