火災はなぜ起きるのか?― 燃焼の3要素・4要素から考える火災予防の基本 【熊本防災】

「可燃物があるから火災が起きる」

多くの方がそう思われがちですが、実はそれだけでは火災は発生しません。

火災には必ず“条件”があり、その条件がそろったときに初めて燃焼という現象が起こります。

消防・防災の分野では、この条件を「燃焼の3要素」、さらに一歩踏み込んで「燃焼の4要素」として整理しています。

本コラムでは、燃焼の基本的な仕組みから、現場で実際に起こり得る危険、そして火災予防につながる考え方までを分かりやすく解説します。


燃焼とは何か?

燃焼とは、物質が酸素(または酸素を含む物質)と激しく化学反応を起こし、熱や光を発生させる現象をいいます。

火災とは、この燃焼が人の意図に反して発生し、制御できなくなった状態を指します。

つまり、燃焼そのものは化学反応であり、火災は「事故」としての燃焼なのです。


燃焼の3要素とは?

燃焼が起こるためには、次の3つの条件が同時にそろう必要があります。

① 可燃物(燃えるもの)

木材、紙、布、石油類、ガス、プラスチックなど、燃える性質をもつ物質です。

身の回りの多くの物が可燃物であり、「燃えるものがない場所」はほとんど存在しません。

② 点火源(熱)

可燃物が燃え出すためには、着火温度以上の熱が必要です。

火、火花(スパーク)、高温の機械、摩擦熱、静電気なども点火源になります。

③ 酸素供給源(空気)

燃焼には酸素が不可欠です。

通常の空気中には約21%の酸素が含まれており、これが燃焼を支えています。


3要素のうち1つでも欠けると燃えない

この3つのうち、どれか1つでも欠けると燃焼は起こりません。

  • 可燃物がなければ燃えない

  • 点火源がなければ燃えない

  • 酸素がなければ燃えない

この考え方は、消火の基本原理にもつながっています。

消火器や防火シャッター、窒素消火設備などは、燃焼の3要素を断ち切る仕組みを利用しています。


ガソリンは「中」で燃えない?

非常に危険な物質の代表例として挙げられるガソリンですが、

実は容器の中でスパークを発生させても燃焼しない場合があります。

これは、容器内では空気(酸素)が遮断されているためです。

しかし、ガソリンの表面や蒸気が空気と接触した状態で火花が発生すると、

一瞬で爆発的な燃焼が起こります。

この事例は、酸素の存在がいかに重要かを端的に示しています。


燃焼はなぜ「燃え続ける」のか?

燃焼の3要素がそろうと燃焼は開始しますが、

それだけで必ず燃え続けるとは限りません。

燃焼が継続するためには、次の仕組みが必要になります。


燃焼の4要素とは?

燃焼の3要素に、もう1つ重要な要素を加えたものが燃焼の4要素です。

④ 連鎖反応

燃焼によって発生した熱が、周囲の可燃物を次々と加熱・活性化し、

連続的に酸化反応(化学反応)が進んでいく現象を連鎖反応といいます。

この連鎖反応があるからこそ、火は「燃え広がる」のです。

可燃物 × 酸素 × 点火源 + 連鎖反応 = 火災


酸素濃度と燃焼の深い関係

通常の空気中の酸素濃度は約21%です。

  • 酸素濃度が26%程度まで上昇すると

     ➡ 燃焼速度は通常の約2倍に

  • 逆に酸素濃度が低下すると

     ➡ 燃焼は急激に弱まり

  • 約15%未満になると燃焼は成立しません

この15%前後が、燃焼に必要な最低酸素濃度とされています。


酸欠空気の危険性

労働安全衛生法では、

**酸素濃度18%未満の空気を「酸欠空気」**と定義しています。

酸欠空気中では、

  • 燃焼しない

  • しかし、人間も正常に呼吸できない

結果として、意識障害や死亡事故につながる重大な危険があります。

酸素が少ない=安全、というわけでは決してありません。


防災・点検業務における重要な視点

消防設備点検や防災管理において重要なのは、

  • どこに可燃物があるか

  • どこに点火源が存在するか

  • 空気や換気の状態はどうか

  • 燃焼が連鎖しやすい構造になっていないか

を総合的に把握することです。

単に設備を設置するだけでなく、

「燃焼の仕組みを断ち切れているか」という視点が事故防止につながります。


まとめ|火災予防の基本は「燃焼を理解すること」

火災は偶然起きるものではありません。

必ず原因があり、必ず条件がそろっています。

  • 燃焼の3要素

  • 燃焼の4要素

  • 酸素濃度と人命リスク

これらを正しく理解し、日常点検や設備管理に反映させることが、

建物と人命を守る最大の防災対策です。

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