【熊本消防設備】不活性ガス消火設備とは?全域放出・局所放出・窒素系までを解説
不活性ガス消火設備(代表例:CO₂、窒素、IG-55、IG-541など)は、水や泡を使わずにガスで消火する設備です。電気設備・サーバー室・機械室・危険物を扱うエリアなど、「水をかけられない」「汚損させたくない」場所で採用されます。
ただし、ガス消火は“強力”な反面、人の安全確保(窒息リスク)や区画の密閉が消火成否を大きく左右します。ここでは、写真の内容をもとに「仕組み・構成・起動の流れ・全域放出と局所放出の違い・環境にやさしい窒素系」まで、簡単に整理します。
目次
不活性ガス消火の基本原理:ポイントは「酸素濃度を下げる」
火は「燃えるもの」「酸素」「熱」「連鎖反応」の要素がそろうと大きくなります。
不活性ガス消火はこのうち**酸素側を弱める(希釈する)**ことで燃焼を止めます。
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全域放出方式:部屋(区画)全体にガスを行き渡らせ、室内の酸素濃度を下げて鎮火させる
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局所放出方式:火点周辺だけをガスで覆って消す(酸素濃度を局所的に下げる)
この違いが、設備設計・運用・リスク管理に直結します。
まず大事:防護区画とは?
不活性ガスの消火は、ざっくり言うと「部屋の空気の性質を変えて燃えにくくする」イメージです。
そのため、ガスをためるための“囲い”が必要になります。これが防護区画です。
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壁・床・天井などで一定の範囲を区切った空間
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扉・開口部は、放出前後に閉鎖できる仕組み(自動閉鎖やシャッター連動など)が重要
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換気・空調の停止、ダンパ閉鎖ができないと、ガスが逃げて濃度が保てず消火性能が落ちます
全域放出方式(室内まるごと消火)の「設備構成」
写真に出ている全域放出方式の構成要素を、現場説明しやすい形にまとめるとこうなります。
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消火薬剤(ガス)貯蔵容器(CO₂、窒素、混合ガスなど)
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容器弁・起動装置(ガスを出す“きっかけ”を作る部分)
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配管・集合管
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選択弁(複数区画がある場合、どこへ放出するかを切替)
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噴射ヘッド(ノズル)(室内に放出する出口)
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制御盤(連動の司令塔)
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自動火災感知設備との連動(必要に応じて)
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警報装置(音声警報・サイレン)
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表示灯(放出表示・立入禁止の注意喚起)
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開口部閉鎖(シャッター・自動閉鎖装置)
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換気停止・ダンパ閉鎖(ピストンリレーザ等で作動する例)
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避圧装置(避圧ダンパ)(放出時の圧力上昇を逃がす)
水系設備が「水を押し出すエネルギー(ポンプ等)」が主役なのに対し、
ガス系設備は「ガス(または加圧ガス)が持つ圧力」で一気に放出するのが特徴です。
起動の流れ:安全確保が“手順の中心”
全域放出方式で一番大切なのは、消火性能以上に人命安全です。
写真の内容に沿って流れを“現場の言葉”で並べます。
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火災発生(感知器作動、または人が発見)
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警報が鳴る/音声で避難を促す
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放出前に防護区画の扉・開口部を閉鎖(シャッター閉鎖など)
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換気停止・ダンパ閉鎖で区画を密閉に近づける
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一定の遅延時間の後、噴射ヘッドからガス放出
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放出表示灯が点灯し、立入禁止が明確になる
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消火後は、必要な安全確認(換気、残留ガス、再燃の有無)をして復旧へ
なお、CO₂などは濃度条件によって危険性が高く、誤起動・誤放出が重大事故につながるため、**「原則:手動起動」**の考え方が強く出ます。
(=「人がいる可能性がある場所では、勝手に放出しない」思想)
噴射ヘッド(ノズル)の放射条件:短時間で出し切る
ガスは「ダラダラ出す」と濃度が作れません。一定時間内に必要量を放出する設計が重要です。
写真のポイントとして、高圧式・低圧式で放射圧の目安が異なることが示されています。
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高圧式:放射圧の目安が高い
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低圧式:高圧式より低いが、規定の放射性能を満たす必要
現場では、
「ノズルの向き」「障害物」「区画の漏れ」「ダンパ閉鎖不良」
このあたりが“効かない原因”になりやすいので、点検時の説明ポイントになります。
局所放出方式との違い:再燃リスクの考え方が変わる
全域放出方式
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部屋全体の酸素濃度を下げる
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放出後もしばらく条件を維持できれば、再燃しにくい
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その代わり、区画の密閉・閉鎖連動が必須
局所放出方式
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火点周辺だけをガスで覆う
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一度消えても、周囲から空気が入りやすいので再燃の可能性が上がる
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だからこそ、初期火災の段階で確実に消し切る運用が重要
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防護対象物の表面が、どれかの噴射ヘッドの有効範囲に入るよう配置する考え方になる
「区画が作れない(天井が高すぎる、適切な囲いが難しい)」などの事情があると、局所放出方式が検討される、という整理が分かりやすいです。
移動式不活性ガス消火設備:大型CO₂消火器の“システム版”
写真では移動式(ホース+ノズルで人が放射するタイプ)のイメージも示されています。
考え方は「屋内消火栓」に近く、
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ガス貯蔵容器(ボンベ)
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高圧用ホース、ホースリール
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ノズル(噴射口)
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開閉弁(手で操作)
で構成されます。
運用上の要点はシンプルで、
風上側に立って、火点を覆うように放射し、消火後はホース内に圧が残らないよう放出して終える。
(※設備ごとの手順に従うのが前提)
環境にやさしい消火薬剤:窒素系(N₂、IG-55、IG-541)
近年は、環境配慮・安全性の観点から、窒素や窒素混合系が採用されるケースが増えています。
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窒素(N₂):空気中にも多く含まれる気体で、性質として“燃えにくくする側”
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IG-55:窒素+アルゴン系の混合
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IG-541:窒素+アルゴン+CO₂系の混合
一方で、窒素系は「液化ガス」とは扱いが違う面があり、
貯蔵圧が高い/容器本数が増えやすい/放出時の圧力変動(避圧設計)が重要
といった設計・施工の注意点も出てきます。
点検・現場説明でのチェックポイント
不活性ガス設備は、機器単体よりも連動が命です。点検や改修相談では、次の観点で説明すると納得されやすいです。
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防護区画の“漏れ”はないか(扉、貫通部、天井裏、ダクト周り)
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シャッター・自動閉鎖装置は確実に動くか
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換気停止・ダンパ閉鎖の連動が生きているか
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放出前警報(音声・サイレン)と表示灯が機能するか
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手動起動の操作性、緊急停止の位置が適切か
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避圧ダンパが塞がれていないか(改装で物が置かれがち)
まとめ:ガス消火は「効かせる設計」と「安全に使う運用」がセット
不活性ガス消火設備は、設備としては非常に頼もしい一方で、
区画・連動・警報・手順が揃わないと効果も安全も担保できません。
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全域放出:区画を作って“部屋まるごと消火” → 再燃しにくいが安全管理が最重要
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局所放出:火点周辺を狙う → 区画不要な場面に強いが再燃リスクを意識
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窒素系:環境配慮・代替薬剤として有力 → 圧力・容器・避圧設計がポイント